神奈川県立横浜国際高等学校では、2021年度からFlat for Educationをいち早くご利用頂いています。どのような経緯で導入に至り、どのような効果があるのか、国際科で選択音楽を担当している藤井亮子先生にお話を伺いしました。
➖ まずは、学校の特徴を教えてください。
帰国子女が多いというところが特徴です。高校に入ってくるときに、日本の教育課程を受けてきている子とそうでない子が混じっているので、知識と経験のベースが大きく違います。例えば、日本の授業でおなじみのリコーダーに触れたことがない代わりに、金管楽器や弦楽器の経験がある子もいます。各国で文化も教育も様々です。
Google Classroomと連携、生徒が試行錯誤できる点への期待
➖ そんな知識の異なる生徒たちが学ぶツールとして、Flat for Educationを導入することになった経緯を教えてください。
学校にクロームブックが導入されるということになって、まずはGoogle ClassroomなどのGoogle Workspace関係のツールを習得することになりました。それらを利用することで、生徒の感想を一気に集め、即シェアできる利点を実感していました。それと同じことを楽譜上でもやりたいと思いました。
➖ Flat for Education導入前には、他のソフトウェアやアプリはお試しになりましたか?
個人的にはFlat for Education(以下Flat)以外のソフトウェアもいくつか試しました。五線の上に音符を置くことができ、最も扱いやすいのがFlatだと感じ、利用し始めました。
➖ 具体的には何が決め手となってFlat for Educationをお選び頂きましたか?
Google Classroomとの連携ができるということと、サポートが充実していることが決め手になりました。
Flat以外にもいくつか試した中には、より視覚的に楽しんで創作することが可能なツールもありました。ただ、高校音楽の授業では自分の内面を表現する手段としてより多くの選択肢があるところから創作することを目指したいと思っています。その点、Flatは様々な楽器を選択でき、その音色を聞きながら生徒が試行錯誤でき、教員にもその履歴が見えるというのが素晴らしいと思いました。
ハードルが高かった創作の授業
➖ 藤井先生はもともと作曲ご専門ですか?
私自身は声楽出身で、作曲は苦手なタイプだったんです。でも、だからこそ創作で最初に躓く生徒の気持ちが分かるというのはあると思います。
➖ それは意外ですね!作曲が専門ではないのに、Flat for Educationで創作の授業に積極的に取りくむようになったきっかけは?
やっぱりコロナで歌唱が難しくなったということが大きいですね。
でも創作の授業を始めてみたら、創作も楽しいじゃん!と思いました笑。
というのも、高校の芸術選択科目には音楽・美術・書道があって、それぞれの先生方とお話しすることが良くあります。美術と書道は基本的に個別活動で、またアウトプットが誰にも見える形になるのがいいなと思っていました。個別で作成した作品を他の人と比較することで得られる学びを音楽でもやりたいと思ったんです。音楽の授業活動の中で、実技は演奏したら消えてなくなる時間なので、それはなかなかかなわないのですが、創作ならそれができることに気が付きました。
➖ Flat for Education導入前に課題と感じていたことはありましたか?
創作というのは、音楽教師にとってはものすごくハードルが高いんです。
まず、五線譜にドレミを書けない、読めない生徒が高校生でもほとんどです。そして、それを紙に書いたところで再現するのも難しい。例えば単旋律だったら、歌ったり、ピアノやリコーダーで演奏したりということもできなくもないけれど、できることの範囲はかなり狭いです。それに単旋律に限定してしまうと、感激するほど良いものができるわけじゃない。レベルとしてはすごく初歩的なことしかトライできないんですよね。実際の作曲のもつ選択肢の幅広さを活かせないなーと思っていました。
Flat for Educationを通して知識を身につけ、試行錯誤を楽しむ生徒たち
➖ Flat for Education導入後、変化はありましたか?
大きな目標として、1年の終わりに絵本にあわせてBGMを作曲するという活動があります。その作曲のために必要な知識、ソルフェージュを身につけるためには、生徒が「つまらないな」と思うところをいくつか突破する必要があります。それを突破できるようにチャレンジできる要素が、Flatには全部揃っていると私は思います。
その中でも最近気に入っているのがFlatのワークシート機能です。ソルフェージュだけをひたすら取り組む授業ってしんどいですよね。でもワークシート機能を使って、段階的に課題の難易度を設定しながら生徒たちが飽きないよう、短い時間で継続的に取り組めるようにしています。そして、創作課題も短い作品にトライしていきます。自分が作曲する立場になると、それを知らなきゃいけないし、知ることで出来上がる音楽に差ができるというのも体験するからこそ分かる。なので、創作って音楽の授業の中で「学ぶ、実践する、試行錯誤する」ができる大事な活動だと思うようになったし、教師として指導のあり方を転換していく機会になりました。
創作って難しいし、一部のできる人のやることだって思っていたけど、いやそんなことないな、これをやらないと音楽の良さは分からないな、教えられないなと思うようになりました。
始めはドレミも分からなかった生徒たちが、このFlatを使うことでどんどんできるようになってくるんです。Flatには音符上にドレミを自動表示してくれる機能があって、五線譜でどこがドレミか分からないという段階からスタートする生徒にも視覚的に分かりやすい。そして、音符を入力してみて再生ボタンを押せば自動再生してくれる。それが生徒たちにとっては衝撃的だったようです。
創作もできるようになって、あーでもない、こーでもないと試行錯誤してて、分かる→楽しむまでがものすごく短時間で出来るようになったのがFlatを使うようになってからですね。
➖ 授業中の生徒の反応はいかがですか?
生徒はクラスがシーンとするくらい黙々と作業しています。絵本に合わせて自分の音楽を再生すると、「できた!」という達成感が強いようです。私もすごく感動して、生徒たちもお互いに「あそこのこの音がすごかったねー」という感じになります。
➖ 生徒にとってFlat for Educationの使い方が難しいということはありませんか?
例えば、再生音は色々な楽器を選べるので音符の配置も無限大です。
ただそうすると、何から手をつけて良いか分からない生徒もいるので、最初の創作課題は短く8小節で、ドとソだけしか使えない課題を出します。場合によっては、音価を制限して創作させることが可能です。
同じ課題でも、得意な子は色々な楽器を使って、凝ろうと思えばいくらでも凝ることができる。8小節の中でどれだけ出来るか考えてくるので、見ててすごいなと思います。1つの課題で生徒の能力やチャレンジ精神の幅に対応できることってはなかなかないと思います。それが本当に素晴らしい。
よりクリアな指導
➖ 先生はGoogle Siteで生徒の作品を音楽選択の生徒限定で公開したりもされていますよね。
そうなんですよ。そうすることで、生徒が「この人の作品すごいな!」と感じた時に、どこがすごいのかを楽譜で客観的に探れるんですよね。
「すごい」とか、「感動した」という主観的なものと、楽譜という客観的な事実の間のところを大事にして指導したいとは思っていたんですが、Flatでの創作に辿りついてからすごくクリアに指導できるようになりました。
➖ どのような点で指導がクリアにできるようになったと思いますか?
音楽を聴いた時の感じ方というのは人それぞれで当たり前だし、感動したとかしなかったとか、こうした方がいいなど、色々な感じ方があるわけじゃないですか?
それは主観的な気持ちだけども、「どうして自分はそう思ったんだろう?」と調べていく、探求していくことが学びだと思っています。単に主観的な感想の述べ合いではなく、どうしてそう思ったのか楽譜を見て調べてみよう、ということができるようになりましたし、とても大切にしています。
勤務時間内に生徒の満足度が高い授業を実現
➖ 授業の内容や生徒の反応以外に変化はありましたか?
GoogleとFlatを使うと勤務時間内で色々なことを実現できるんですよね。
私も若い時は勤務時間をだいぶ超過して授業準備や評価を行っていたんですが、ある時ベテランの先生に「勤務時間内でできることを考えなきゃ」と言われたんです。今はやりたいことが勤務時間内で出来るようになりましたし、授業での生徒の満足度も上がったように思います。
やはり紙ベースだと先生側の苦労も多いです。全部紙ベースでやっていた時と比べると、1/3くらいの時間で準備できるようになったと思います。紙ベースだと、課題を回収して、全員分集まっているか確認して、出席番号順にならべて…という作業も結構時間がかかるんですよね。返却するにも授業の時間を割かなきゃいけないし、それに莫大な時間がかかっていました。
それが今は数クリックで返却できます。授業中に課題に取り組んでいる時も、心配な生徒はこちらの画面から確認してピンポイントで声かけできます。個別の活動になると困難を感じる子や、恥ずかしくて助けてくださいと言えない生徒へもピンポイントに支援できるのがいいですね。時間と色々な労力がカットできています。
こちらから進捗を確認できると分かっているので生徒もうかうかしてられませんね。すごく集中して取り組んでる子が多いのは、そういうところもあるかもしれません笑。
課題のハードルを少しずつ上げられる
➖ 数年にわたりご利用頂いている藤井先生のイチオシ機能を教えてくだい。
生徒が利用する機能に制限がかけられるツールセット機能です。
色々な機能があるので、できる子にとってはものすごくいいけれど、できない子にとってはどれを触ったらいいかわからないという状況になりがちです。最初はかなり制限して、少しづつハードルを上げていけるというところですごくツールセットは気に入っています。
ワークシート課題もすごく助かります。 まず初めに説明をして、最初の数問は一緒にやってみるという方法で利用しています。 分からなかったら生徒間で相談してもいいということにして、コミュニケーションを取れるようにもしています。
やっぱりコロナの影響で、生徒同士のコミュニケーションが苦手になってしまった子もいるので、そういう時間も意識的に取るようにしています。
作品を通して自分を大事にする生徒に
➖ それでは最後に、現在どのような授業で利用しているか教えてください。
まずは、2つの音(ドとソ)で8小節の創作です。
歌唱の実技試験をしている裏で生徒に取り組んでもらい、次の授業の時にグループ内で各自の作品を発表してもらっています。
そのあとは、3つの音(ドとソとミ)での創作です。
第3音が加わるだけで、音楽表現がぐっと広がることを体感できます。これは3時間ほどかけて自分の表現したいことを創作してもらいます。「テスト前の私の心の持ちよう」とか、「朝の慌ただしい私の様子」とか本当にみんな色々なテーマがあって面白いです。音だけじゃなく休符の使い方が秀逸な子もいて、すごいなーと思っています。
➖ その後に絵本のBGM創作が始まるんですね。どのようなところを授業のポイントにされていますか?
生徒が自分の作品に自信を持てるようなものを作らせてあげたいと思っています。
高校生にとって自信をもって自分のことを話すって難しいことなんだと思います。誰かにこう思われるんじゃないか、とか、自分なんて大したことない、と思っている生徒は多いように感じます。
私は音楽の授業を通じて感じて欲しいことの中に「自分を大事にすること」というのがあるんです。
自分が時間をかけて制作した作品には、試行錯誤したからこそ愛着が湧いてくるし、人に紹介する時には自分の思いを語る機会にもなるので、自分を大事にするということにつながるなと思っています。またそれができると、他人の作品についてもそのような想いを想像しながら聴くことが出来るようになります。社会に出たときにこれは大事にして欲しいと思っています。
藤井先生、ご体験をご共有頂きありがとうございました!
藤井先生の過去の課題を授業例としてもご紹介しています。まだFlat for Educationをお試しになったことがない先生は、ぜひ無料トライアルで便利な機能をご体験ください。