前編では、菅利行先生がなぜFlat for Educationを選んだのかをご紹介しました。後編では、Flat for Educationの授業支援ツールが実際の授業設計にどう組み込まれているか、そして導入後に見られた生徒たちの変化をお届けします。

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菅利行先生のプロフィール

春日井市立高森台中学校 音楽科教諭 菅利行先生

教員歴16年。令和4年度から4年間、文部科学省から研究開発学校の指定を受け、GIGAスクール構想により整備された1人1台端末やクラウド環境を効果的に活用して情報活用能力を育成することを目標とした研究に学校として取り組む。現在、中学1〜3年生(8クラス・274名)を担当。Flat for Educationは令和3年(2021年)、同僚の紹介をきっかけに導入。


授業の設計:5つのステップで「音楽の理屈」を体で覚える

菅先生が設計した旋律づくりの授業は、中学1年生でFlat for Educationも取り入れながら五線譜の基礎を身につけるところから始まります。3年生になる頃には課題自体はシンプルになっていきますが、だからこそ自由度も高く、生徒が自分なりに合奏の楽器を選んだり、全体の響きにとてもこだわって作曲する姿が見られるそうです。以下は、1年生の創作の授業の流れです。

① 単元前の1時間:Flatに自由に触れる

最初から機能を1から10まで教えるのではなく、「授業の時間あげるから好きにやりなさい」という時間を設けます。YouTubeの使い方動画を提示しつつ、生徒が自分で試行錯誤する時間にします。「半分以上の生徒は、この1時間でだいたい使いこなせるようになっています」と話します。

② リズムをつくる(1時間)

教科書のリズムゲームを使って4小節のリズムを作ります。全員が同じスタートラインに立つため、あえて1時間かけてじっくり取り組みます。

③ 旋律をつくる:Flat for Educationの登場

コード進行と音の動き(順次進行・跳躍進行)を学んだ後、Flatに事前に打ち込んだ伴奏テンプレートをGoogle Classroomで配布。生徒はその上にメロディを乗せていきます。楽譜が読める生徒はいきなりFlatへ、読めない生徒は教科書の表で音を決めてから打ち込むという2パターンで対応しています。

Flat for Educationで配布された伴奏付き楽譜テンプレート(生徒配布画面)
Flat for Educationで菅先生が作成した「伴奏テンプレート」

④ 聴き返して改善する

再生ボタンを押せばすぐに音が出ます。「書いて、聴いて、直す」というサイクルが何度も自然に回ります。

⑤ 言葉で説明し、フィードバックをもらう

完成した旋律について「なぜこのリズムに、この音の動きにしたか」を言葉で説明させます。菅先生がコメントを全員に返し、それを読んでもう一度ブラッシュアップするかどうかを生徒自身が判断します。


生徒の変化:「なんとなく」の中にある音楽的な感覚

菅先生が最も印象的だとおっしゃるのは、生徒が伴奏の音以外の音で旋律を作ってくることとのこと。

「伴奏に合う音で作ればいいじゃんって答えが出てるのに、そうしないんですよ。それ以外の音で作ってくる(苦笑)」
「なんでそうしたの?って聞くと、一番多いのが『なんとなく』という答えなんですが、そのなんとなくは適当な『なんとなく』じゃなくて、とりあえず鳴らしてみて、この感覚いいよねっていう意味の『なんとなく』なんです。」

これは、再生ボタンを何度も押しながら自分の耳で確認できるFlatだからこそ生まれる気づきです。ただし、菅先生はその「なんとなく」をそのまま受け取るわけではありません。

「基本の構造としてはこうなんだよっていう話をして、もう1回考えさせる」という対話を必ず挟みます。そして最終的な評価の軸になるのは、「どうしてこういう旋律、こういうリズムになったかを言葉で説明させて、そことの整合性があるかどうか。」
「本当はこういうルールがあるんだけど、この響きが自分にとってはすごく心地いいからこそこれでやりたい。こういう音楽にしたいから、このような工夫を加えたいということがちゃんと説明できれば、それは価値のある音楽だと思っています。」

音楽の基礎的な構造への理解を前提としながら、子ども自身の感覚とクリエイティビティを尊重する。この姿勢が、菅先生の評価の核心にあります。

「ピアノをやってる子はピアノなりのレベルで攻めてくるし、やってない子はやってない子なりのレベルで攻めていく。同じ課題に、それぞれ違ったレベルでアプローチできるので、話し合いが活発になり、お互いの意見も共有しやすくなります。」

習熟度が異なっていても同じ目標に向かえるこの環境が、子どもたちのハードルを下げ、音楽への意欲を引き出します。授業の外でも、端末があれば自宅からFlatにアクセスして、好きな曲を打ち込んで鳴らして楽しむ生徒も。

「高森台中でFlat for Educationを導入してから、そのような姿をたくさん見てきています。」

評価が変わった:「過程が見える」ことの意味

Flat導入後、菅先生の評価の仕方も変わりました。形成的な評価として、学習シートへの記入や即時フィードバックを組み合わせることで、完成形だけでなくプロセスを見取ることができるようになりました。

コメント機能については、取材中に印象的なエピソードを話します。

今までフィードバックをどうやって伝えようかなと思っていた時に、楽譜上でクリックしたらコメントできる状態になってることに最近気づきました。これからはこれを使おうかなと思っています。

楽譜上のピンポイントにリアルタイムでコメントが残せるこの機能が、さらなるフィードバックの充実につながりそうです。

Flat for Educationのコメント機能(楽譜上に直接フィードバックを残せる授業支援ツール)
Flat for Educationのコメント機能 (イメージ図)

授業参観や校内の公開研究授業でこの取り組みを見た方々からは、「創作に向かってちゃんと形になる」「どの端末でも同じファイルにアクセスできるのが価値が大きい」といった反応があったそうです。


「音楽と、将来も仲良く」——菅先生が授業に込める信念

菅先生の授業には、一貫した信念があります。

どの学年でも、最初と最後に必ず『音楽と将来仲良く過ごしていってね』ということを伝えています。正直、技術が身につけば、それは一番ありがたいことなんですけど、いろんな活動を通して、『音楽って楽しいな』というのをいろんな場面で感じてもらいたい。将来、自分が演奏したりすることはないにしても、聴くのが好きだよという状態で、生涯過ごしてもらえる未来を目指してやっています。

だからこそ、それぞれの単元が孤立したものにならないよう、つながりを意識した授業設計を大切にされています。

結局1年間を通して学ぶことが、いろんなところで全部繋がってるんです。取り上げている内容が別の単元につながっていることを自分が気づいた時にも言いますし、あえて生徒に気づかせる仕掛けを授業に組み込んだりしています。

旋律づくりの授業で身につけた読譜力が、歌唱や鑑賞にもつながる。そのつながりの一端を、Flat for Educationが担っています。


まとめ

「誰でも音楽を作れる、経験があろうがなかろうが、そこを打開してくれるのがFlatのいいところ」

菅先生のこの言葉の背景には、音楽と生徒の将来をつなぎたいという、16年間変わらない信念があります。

愛知県春日井市立高森台中学校では、5つのステップに分けた旋律づくりの授業に、Google Classroom連携やリアルタイムのコメント機能といった音楽授業支援ツールを組み合わせ、経験の差を超えて生徒一人ひとりが自分の感覚を言葉で説明できる授業を実現しています。

旋律づくりで身につけた読譜力は、歌唱や鑑賞など他の単元にもつながっていく——Flat for Educationは、その学びの連続性を静かに、しかし確かに支える授業支援ツールです。

取材協力:菅利行先生(春日井市立高森台中学校・音楽科)